大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)26225号 判決

原告 株式会社ルサージュ

右代表者代表取締役 矢沢勉

右訴訟代理人弁護士 金井孝雄

被告 株式会社スクエァー

右代表者代表取締役 山田四郎

右訴訟代理人弁護士 高木一彦

右訴訟復代理人弁護士 高木敦子

主文

一  被告は、原告に対し、金七七四万九六〇〇円及びこれに対する平成一一年一二月一五日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用を五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、三八四七万九六〇〇円及びこれに対する平成一一年一二月一五日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、ビルのテナントであった原告が、競売でビルを買い受けた被告に対し、前所有者に預けた保証金五〇〇〇万円から償却分と原状回復費用を差し引いた三八四七万九六〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一一年一二月一五日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。被告は、被告が承継する保証金返還義務は、敷金相当額に限られ、その額は賃料一〇か月分の五一五万円(消費税込み)である旨主張している。

一  前提となる事実(証拠を掲げた以外は当事者間に争いがない)

1  原告と被告は、いずれも株式会社である。

2  原告は、平成二年五月三〇日草刈宏哲(名義は高原寛之)から、別紙物件目録記載の建物(本件建物)を賃借し、期間は二年、賃料は月額七七万二五〇〇円(消費税込み、以下同じ)と合意して、引き渡しを受けた(本件賃貸借契約)。賃貸借契約書では、その八条一項で「保証金は金五〇、〇〇〇、〇〇〇円也」「とし、金五〇、〇〇〇、〇〇〇円也は本契約締結と共に支払う。」、その九条一項で「保証金は契約存続期間中は全て甲(=賃貸人)にて預かるものとし、その返還は契約期間満了の場合にあっては、本契約第二四条(=原状回復と明渡し)が完全に終了し、甲(=賃貸人)の確認をうけたるのち、その二〇%を償却し、乙(=賃借人)に返還するものとする。」、二項で「本契約第一九条」(=賃借人による解約)「及び第二一条(=賃借人の契約違反による解除)による契約解除の場合には、本物件に次の入居者が決定し保証金を受領した時、甲(=賃貸人)は乙(=賃借人)に返還するものとする。」、三項で「乙(=賃借人)が甲(=賃貸人)に対し、債務を負担するときは、その弁済期の到来・未到来を問わず、甲(=賃貸人)は保証金から差引くことができる。」と規定されている。原告は、右契約同日、右草刈に対して保証金五〇〇〇万円を支払った(甲一、五、一六)。

3  本件賃貸借契約は、その後二年ごとに更新され、賃料月額が、平成四年五月分から八四万九七五〇円に改訂され、最終的には平成六年五月分から五一万五〇〇〇円に改訂されてきた(甲三、四、一四の6)。

4  被告は、平成九年五月一二日、本件建物を競売により買い受け、右賃貸人の地位を承継した。原告は、本件建物を退去しているが、その際、原告と被告との間で、本件建物の原状回復に必要な費用一五二万〇四〇〇円を保証金から差し引くことが合意された。また、賃貸借契約で規定されている二〇パーセントの償却分は、一〇〇〇万円である。本訴請求額の三八四七万九六〇〇円は、保証金五〇〇〇万円から、右原状回復費と二〇パーセントの償却分を差し引いた金額にあたる。

二  争点

被告が承継する保証金返還義務の範囲

第三争点に対する判断

一  賃貸目的物の所有権が移転されたのに伴い、賃貸人の地位が譲渡された場合において、賃借人が旧賃貸人に差し出していた保証金に関しては、その保証金が、賃借人の賃料債務その他を担保する目的で賃貸人に交付され、賃貸借の存続と特に密接な関係に立つ敷金の性質を有するものについては、当然に新所有者に承継されるものと解すべきてあるが、そのような性質を有しないものについては、特段の合意をしない限り、当然には新所有者に承継されない。

二  本件についてみるに、前提となる事実、証拠(甲一、二、八ないし一一、一三、一四の1、一五、一六、一八、一九、証人小野瑞樹、原告代表者)によれば、<1>本件建物は東京・原宿の表参道に近い場所にある三階建て店舗ビルの一室であるところ、<2>本件賃貸借契約では保証金の返済時期は賃貸借の終了後と定められ、<3>保証金とは別に敷金の授受はなされず、賃貸人は賃借人の債務を保証金から差し引くことができる約定があり、<4>原告は保証金とは別に礼金三か月分を賃貸人に支払っており、<5>原告代表者は入居時に二〇〇〇万円をかけて内装工事をしているから、建物等に損傷を与える危険を考慮して保証金は五〇〇〇万円になった旨供述し、<6>競売事件で当庁が平成六年一二月七日に作成した物件明細書には、建物の価格から保証金の半額を差し引いた残額を最低売却価額とした旨の記載があり、<7>本件賃貸借契約の仲介業者は、五〇〇〇万円の保証金は当時この周辺の相場であり、賃貸借契約の一内容であるから、建築協力金や消費貸借ではなく敷金である旨供述し、原告代表者もこれに沿う供述をし、<8>税理士は、被告の落札価額では本件建物の市場相場価額に比して多額の超過利益が発生しているから、被告は保証金を全額返還すべきと述べていること等が認められ、これらは本件の保証金の性質を敷金と解する方向に働く要素ないし証拠である。

三  しかしながら、前提となる事実、証拠(甲一、二、六、乙一、証人小野瑞樹、原告代表者)によれば、<1>本件賃貸借契約の賃料は、契約当初が月額七七万二五〇〇円、最後は同じく五一万五〇〇〇円であり、本件の保証金は当初の賃料の約六四か月分、最後の賃料の約九七か月分に相当し、賃料債務その他を担保する敷金としては余りにも高額に過ぎる上、<2>本件のビルが建築されたのは平成二年の前半であり、原告が賃借したのは同年五月三〇日であるから、原告の差し入れた保証金はビルの建築資金に用いられた可能性も高く、<3>契約書一九条には、賃借人が二年の期間満了前に解約するときは、六か月前に予告をしていても、損害金として保証金の二〇パーセント相当額を賃貸人に支払う旨の約定があり、<4>内装工事による損傷を考慮して保証金が決まったという原告代表者の供述は、そうした会話が存在したのではなく原告代表者の憶測であって、本件の保証金を五〇〇〇万円と算定する根拠については特に明示のやりとりはなく、<5>競売事件で当庁が平成八年一〇月八日に再度作成した物件明細書には、保証金五〇〇〇万円のうち賃料の一〇か月分を適正敷金相当額として、これを建物の価格から差し引いて最低売却価額を定めた旨の記載があること等が認められる。

こうした要素に照らしてみると、本件で賃借人の原告から本件建物の所有者に五〇〇〇万円の保証金が交付されており、それが原告にとっては本件建物を賃借するために不可欠な負担であったとしても、その全額が前記の敷金の性質を持つものとして交付されたものとは認めることができず、その中には敷金以外の建設協力金ないし貸金、空室損料の制裁金、その他の様々な要素を伴っていたものと認めざるをえない。そして、前記のとおり、本件建物が東京・原宿の店舗ビルの一室であり、保証金の外に敷金の授受はなく、当初の賃料が月額七七万二五〇〇円、最後が五一万五〇〇〇円であり、内装工事は賃借人が行うことになっていたこと等の一切の事情を考慮すると、五〇〇〇万円の保証金のうち、契約当初の賃料七七万二五〇〇円の一二か月分である九二七万円の範囲では敷金性を肯定することができるが、これを超える部分については敷金性を否定するのが相当と認められる。

したがって、右敷金性が認められる九二七万円から争いのない原状回復費一五二万〇四〇〇円を差し引いた七七四万九六〇〇円と、これに対する遅延損害金を加えたものが、被告が承継して原告に支払うべき保証金ということができる。

四  よって、本訴請求は、右の限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判官 齋木利夫)

物件目録

(一棟の建物の表示)

所在 渋谷区神宮前四丁目二八番地三六

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付三階建

床面積 一階 七四・八七平方メートル

二階 七九・〇〇平方メートル

三階 七九・〇〇平方メートル

地下一階 七七・〇一平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 神宮前四丁目二八番三六の三

種類 店舗

構造 鉄骨造一階建

床面積 三階部分 六三・〇六平方メートル

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!